月前の砧

(げつぜんのきぬた)

 安政元年(1854)7月、杵屋彦次郎(後、三世 杵屋正次郎)が作曲した曲で作詞者は不明です。安政元年は11月に改元になりましたので嘉永7年とした記録も多いです。
 作曲者は明治の長唄界を代表する名人の三世 正次郎の前名で、天保14年冬、彦之助から二世彦次郎を襲名しました。「君が代松竹梅」が処女作と伝えられていますので二作目にあたる曲です。
 曲は本調子〽︎実にや秋時の」で格調を持って始まり〽︎声高み」では大薩摩の手を使っています。〽︎賑う声の一節や」の後の合の手より二上り〽︎わしがこの身は」より田舎節となります。〽︎数ふる絃の音も澄めり」の後眼目の砧の合方となり、〽︎琴ひきくさに」よりチラシ段切となります。
 全体的に固い感じはありますが名人正次郎の作だけあって各所に作者の才気煥発がみられます。明治20年に福地桜痴の作詞で「砧」を再作曲しています。こちらは曲名を『砧』といっています。(プログラム解説文:稀音家義丸師記述)

演奏:2019年9月21日  於:紀尾井小ホール

  唄:杵家弥佑 杵屋三七郎(現:塩原庭村) 杵屋利次郎
三味線:杵屋浩基(現:杵屋勝九郎) 東音高橋智久 杵屋史弥
  笛:福原友裕
  小鼓:望月左太寿郎
  大鼓:望月太左幹