鞭桜宇佐幣

(むちざくらうさのみてぐら)

 明和元年(一七八六)十一月、江戸市村座顔見世狂言『若木花須磨初雪(わかきのはなすまのはつゆき)』第一番目「鞭櫻宇佐幣(むちざくらうさのみてぐら)」下の巻で上演されました。金井三笑作詞。二代目大薩摩主膳太夫、冨士田吉治。三味線・西川億蔵、錦屋惣治。小鼓・宇野長七、古川清蔵のメンバーで、大薩摩・長唄掛け合の最古の曲です。

 長唄は三下り、大薩摩は本調子で掛け合、濱唄が二上りで調弦が十一回変わります。作曲者ははっきり判りませんが、西川億蔵と冨士田吉治といわれています。上の巻は伝承されていません。

 配役は、薩摩守忠度を九代目市村羽左衛門、花売り早咲おすみを芳沢崎之助、牛黒の丹兵衛本名菊池二郎高直を坂田左十郎、越中次郎兵衛を中村仲蔵、六弥太妹うらぎくを山下半太夫でした。

 曲はノットで始まり源氏の守護神である八幡社の由来、応神天皇の故事を述べ、〽︎渡海の兵船、から舟唄になります。〽︎その王法、より王法仏法に背いた積悪の為、四国九州へ落ちのびる平家の事を述べ、〽︎海士の妹背、から浜唄、〽︎実に要害の一ノ谷、の大薩摩となり、崇徳院の霊が忠度に乗り移り狂いわななき櫻の枝でわが身を打ち据える、丹兵衛と立ち廻りとなり、後、崇徳院の霊が元の社へ神上がりして終曲となります。

 此の曲は後世に大きい影響を与え、「志賀山三番叟」の舟唄、「官女」の〽︎波のあわれや、の所などに使われている例を見る事ができます。江戸時代に作曲を志す演奏家の必修曲であったそうで、其の為割りに正しく伝承されています。古風な味わいを残し変化に富んだ貴重な曲です。(プログラム解説文:稀音家義丸師記述)

演奏:2020年9月12日 於:紀尾井小ホール

大薩摩:稀音家義丸 杵家弥佑
三味線:杵屋勝九郎 東音高橋智久
  唄:杵屋勝彦 塩原庭村 杵屋利次郎
三味線:杵屋佐之義 東音大宮悟 芳村伊十治郎
  笛:福原友裕
 小鼓:望月秀幸
 脇鼓:望月左太晃郎
 大鼓:藤舎呂凰